学術講演会「自閉症スペクトラムのある人の歯科治療の実践」開催のお知らせ

日時: 平成31年4月27日(土)午後7時~9時
会場: 高松市歯科救急医療センター
演題: 「自閉症スペクトラムのある人の歯科治療の実践」

講師: 日本大学松戸歯学部障害者歯科学
専任講師   伊藤政之先生

 

最近、マスコミにも取り上げられる機会が増えてきました。自閉症患者さんについて、正しく理解し、地域のかかりつけ歯科医師でサポートしていけるよう、実際の診療場面をイメージしながら、問題解決の糸口、これからの学びの方向性をたぐりよせたいと思います。多くの職種の方と情報共有できれば幸いです。

 

抄録; 

 今回は、前回消化不良のまま終わってしまいました、自閉症のある人の歯科治療の実践についてを中心にご紹介したいと思います。

 患者さんは、「本当に、私を(わが子を)診てくれる歯医者さん」が、「いつでも、どこでも、誰でも、近くで受診できる」ことを望まれていると思います。しかし、障害のある患者さんに関しては、まだ、お互いに躊躇があります。そこで医療者側の躊躇をちょっとした工夫で乗り越えることができると、患者さんの躊躇の手助けができるのではないかと思っています。

 既に皆さんもご存知のようにJ. Weymanが ”the dentally handicapped child”の問題を提起し、その後L.A.Foxが ”Grab bag”として8つの ”trics”を紹介し、障害のある人たちも歯科治療を受診できる可能性が広がりました。1970年代初頭のアメリカの話です。

 ”trics”の中で、”Tender Loving Care (T.L.C.)”が最初に挙げられています。以前にも紹介させていただきましたが、大江健三郎氏は、1988年リハビリテーション世界会議の基調講演で「障害の受容」を中心に、息子の光さんの話もされました。(自立と共生を語る,三輪書店,1994.)光さん自身のみならず、彼に関わってきた方たちに対して ”decent”という形容をされました。この意味は、「恢復する家族」で「人間らしく寛容でユーモラスでもあり信頼にたる」と紹介されています。ここに、 ”T.L.C.”をオーバーラップさせることができるのでないかと思います。自閉症のある人の歯科治療の根本は、それぞれの治療手段に至る過程に、その中には必ず「人間らしく寛容でユーモラスでもあり信頼にたる(T.L.C.)」の態度や感情が含有されていると思います。

想いだけでは治療はできませんが、相手を慮る態度は、医療を営む人としては大切な根本的なことではないかと思います。

 また、”trics”の中には、”behavior  modification (行動変容)”があります。昭和56年に大学に残り、診療室で患者さんに出会い、その対応に苦慮したのが “behavior modification”でした。「有意識の状態でその人の(意識を変えて)行動を変える」事の難しさを、知識レベルから実践での体得は経験を通して具現化されますが、それには長い年月が必要でした。治療の方法はマニュアル化できるかもしれませんが、一人ひとりへの対応は千差万別です。患者さんを受け入れる中で見えるもの、見えなくてもあるもの、それを見なくてはならない難しさ。しかし、これまでそのモチベーションが続いているのは、それほど、意識下での歯科治療は深く、面白く、楽しく、魅力的だからです。

 恩師上原先生は、「うちでやっている診療は、1.5次的なものだよ。」とよく言われていました。当時、医療機関の構造として、1次、2次、3次のピラミッド構造と云われていましたが、その底辺である診療所とセンター機能の間くらいの機能をもたせている診療室と位置付けていました。ちょっとした工夫で、外来意識下での治療はできるという考え方が基本になっています。現在は、静脈内鎮静法(静脈麻酔)を多くの場面で活用していますが、当時は左程多くなく、外来意識下での治療または全身麻酔が主流でした。全身麻酔の考え方も、いわゆる歯科集中治療という考え方ではなく、包括的な治療という考え方で、「全身麻酔は最後の切り札」ではあるけれど、治療手段の流れの中での一つの方法であり、その後はまた外来意識下での治療を継続する、というものでした。診療室で上手く受容できるようになれば、地域の診療所を受診していただく、との考え方で、オリエンテーション、いわゆるトレーニングに力を入れていました。それは現在も踏襲されています。

 かかりつけ医として、障害歯科診療の1次医療機関として機能するためには、皆さんが抱いている「その躊躇」を突破しなければなりません。

  ”behavior modification”を行うためにまず考えていることは、患者さんから情報収集をする、観察する、患者さんのピボタル領域は何かを知る、そして関わり合う事、が大事と考えています。障害者歯科学の理論と実践は両輪ですが、理論的な背景を持ちたいと思いつつ、自身の専門的な知識が少なく、如何にこれまでの経験から考え方や実践の何かを上手く伝えられるかどうか分かりませんが、前回に続き、今回の講演がセンターの資源、地域の資源を活用して自閉症スペクトラムのある方たちの診療を、躊躇することなくどう取り組めばよいか、取り組みを模索している「診療相談・協力医」の皆さんやスタッフの皆さんが「私を(わが子を)診てくれる歯医者さん」に繋がる、実践のヒントになれば幸いです。